1970年代に発見された選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、抗うつ作用に加えて抗不安作用をもち、三環系抗うつ薬と比べて副作用出現率が低く、パニック障害に対する有効性が示されてきたことから、近年パニック障害をはじめとする不安障害の治療に用いられるようになってきている。新規抗うつ薬であるSSRIの治療反応性に個体差があることが臨床的には経験されているが、そのような治療反応性の投与前予測や日本人におけるその至適投与量などに関する、実際に臨床的な投与指針となるべき研究報告はいまだ認められない。ポストゲノム時代を迎えようとしている現在、「最大の臨床効果・最小の副作用」とするためには各個体のもつゲノム情報を含む変数を包括的に処理できる方法が必要である。そこで本研究では分子生物学的手法を用いて不安の病態生理への関連が想定されている神経伝達物質であるセロトニンのトランスポーター遺伝子における突然変異を検出することにより各個体の遺伝子型をPCR法で決定し、次いで、これらの遺伝子型とSSRIを投与された各個体における臨床効果や副作用出現・薬物血中濃度との関連を検討することにより、最終的には治療反応性や副作用出現の投与前予測をめざすことを目的とした。本年度は13人のパニック障害患者におけるセロトニントランスポーター遺伝子である5-HTTLPRの遺伝子型とSSRIのひとつであるパロキセチンの臨床効果について検討した。その結果、L遺伝子をもつ患者群(n=6)と比較して、L遺伝子をもたない患者群(n=7)においてパニック障害の重症度は高く、その一方でパロキセチン投与4週後の症状改善度はL遺伝子を持つ群で有意に高いことが示された。 さらに、本年度は血漿中あるいは尿中のパロキセチンとその代謝物の濃度を測定する方法を開発した。サンプル血漿をアルカリ性のもと、溶媒で抽出し、濃縮後、絡むスイッチングHPLC-UVを用いて定量するものである。本法における検出限界はパロキセチンならびにそれらの代謝ともに0.5ng/mLであった。 今後、サンプル数を増やしさらに検討を加えていく予定である。
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