【研究方法】<実験1:タッチパネル式課題による視覚性記憶の検討>全被検者に新たに開発したタッチパネル式ハードウェアを用いた課題を施行した。課題の全過程は刺激提示過程と再生過程に分けられる。約12インチの画面は水平に3〜5個の区画(セル)に等分されている。セルのうちの一つが1秒間隔であらかじめ設定した順序で点灯する。刺激提示過程では被検者は刺激提示順序を記憶しサイン波による音の合図の後に再生過程へと移り、画面を直接手で触れることにより記憶した順序を再生するように教示した。<実験2:D群におけるタッチパネル式課題成績の状態依存性の検討>さらにD群に関しては本課題の成績とうつ病の症状の重症度との関連について検討を行う為に高齢者のうつ病性障害の重症度評価尺度として広く用いられるGeriatric Depression Scale(GDS)を併せて施行しタッチパネル式課題成績との相関性の吟味を行った。<実験3:健常者における近赤外線分光法(NIRS)による前頭葉皮質の活動性に関する予備的検討>成人健常者における前頭葉皮質の活動性を調べる為にNIRSを用い、5分割課題計45パターンを作成し課題施行中のoxy-Hb、deoxy-Hb、Total-Hbの変化を測定した。 【研究結果】<実験1>AD群においてはHC群、D群に比べてタッチパネル式課題の誤答が有意に多かった。また、AD群、D群ではHC群に比べて有意な反応時間の延長が見られた。<実験2>GDSスコアとタッチパネル式課題の正誤、反応時間の間には相関は見られなかった。このことから、D群の本課題成績低下はtrait dependentである可能性が示唆される。<実験3>健常者のNIRSの結果、課題開始直後より左前頭葉皮質のoxy-Hb上昇を認め、課題施行中は上昇が持続した。また刺激提示中、左前頭葉皮質のoxy-Hbの上昇を認めた。これらの事から、AD群においては視覚の頭頂連合野を含めた背側経路から前頭前野に至る経路が、うつ病においては優位半球前頭前野の障害が示唆される。
|