神経性食欲不振症は低栄養状態が長期間続き、抑うつ、不安、強迫症状、思考の狭小化などの精神症状が見られる。低栄養状態で中枢神経細胞のオートファジーが誘導され、細胞内タンパク質および細胞内小器官分解による神経細胞の機能障害が生じることが、神経性食欲不振症の病態に深く関与する可能性を仮定した。神経性食欲不振症では種々の神経内分泌系の異常も見られることから、本年度は、下垂体細胞を飢餓条件下におくことでホルモンの発現にどのような変化が見られるかについて、脳下垂体腫瘍株を用い実験を行った。ラット脳下垂体腫瘍由来細胞株であるGH_3細胞を糖飢餓条件下におくと、成長ホルモン(GH)測A発現量が上昇することを見いだした。しかし、分泌されるGH量に有意な変化が見られなかった。また、初代培養下垂体細胞においても、GH_3細胞同様に糖飢餓によるGH分泌量に有意な変化は見られなかった。糖飢餓によるグルコース輸送タンパク質(Glut2)のタンパク質発現量の変化を調べたが、有意な変化は見られなかった。GH_3細胞の糖飢餓条件下における細胞内情報伝達経路を明らかにするため、Erk1/2、JNK、p38 MAP kinaseのリン酸化状態について調べたが、いずれについても有意な変化は見られなかった。種々の細胞においてアミノ酸飢餓がmTORタンパク質のリン酸化を減少することで、オートファジーを誘導することが明らかとなっている。そこで、糖飢餓条件によるGH_3細胞のmTORタンパク質のリン酸化を調べたが、有意な変化は見られなかった。以上のことから、糖飢餓によるオートファジーはGH_3細胞では誘導されないことが示された。今後、ラットを用いた飢餓実験により、脳のどのような場所に傷害が起こるか、詳細な解析を行う予定である。
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