カロリー制限による低栄養状態が神経細胞にオートファジーを誘導するかについて、オートファジーの特徴であるAtg12p-Atg5p結合体の形成、Atg8pの脂質修飾や情報伝達物質の活性の変化をラットを用いて解析した。昨年度までの研究で大脳、小脳、視床下部でのオートファジーの誘導は確認できなかったので、本年度は下垂体におけるオートファジー誘導の解析を中心に行った。下垂体にもAtg8pの一つであるMAP-LC3の発現は見られたが、48時間絶食によるMAP-LC3の脂質修飾の変化はみられなかった。より長期間の栄養制限や絶食によりオートファジー誘導の可能性は考えられるが動物実験倫理上、実験を行うことができなかった。神経性食欲不振症(AN)の女性患者では無月経を主症状する。その病因は不明な点が多いが、持続的な心理的ストレスが発症の背景に存在する例が多く、視床下部-下垂体-副腎系の異常が指摘されている。視床下部室傍核のコルチコトロピン放出因子(CRF)はストレス時にその分泌が促進し、下垂体に作用して副腎皮質刺激ホルモンの分泌を促す。CRFは同じく視床下部に発現するゴナドトロピン放出ホルモンの分泌を抑制し、LHやFSHの分泌を抑制することが知られている。我々の研究室ではCRFのファミリーペプチドのUcn2が下垂体に発現することを明らかにし、下垂体前葉のUcn2はCRFによって促進的にその発現と分泌が制御されること、下垂体前葉から分泌されたUcn2がLHやFSHのmRNA発現と分泌を抑制することを明らかにした。これらのことから、ANの無月経はCRF系の亢進によるLH、FSH分泌の抑制によるものと考えられ、その機序の一部には下垂体Ucn2が関与する可能性が考えられる。
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