統合失調症は特有の症状によって規定される多因子性の症候群であり、家族集積性が高く、遺伝要因と環境要因の両方によって発症する「ありふれた病気」であると考えられているが、その発症機序はいまだ不明のままである。近年の分子遺伝学的研究の成果として、6pにおいてdysbindinが統合失調症脆弱性遺伝子としてポジショナルクローニングされ、それから我々のグループを含む9の独立したグループにおける追試研究にて関連が確かめられた。死後脳研究においては、dysbindin遺伝子の統合失調症脳における発現が低下していることが複数のグループにて報告されている。 しかし、dysbindinの神経細胞における機能については未だ報告がまったくない。そこで、ラット大脳皮質ニューロンの初代培養系にてウィルスベクターを用いた強制発現を行い、神経細胞機能を検討した。dysbindinはプレシナプスに発現していることから、グルタミン酸系への影響を検討すると、dysbindinの強制発現によりグルタミン酸の放出の増加と、SNAP25やシナプシン1などのプレシナプス分子の発現の増加が認められた。神経細胞の基本的な機能である生存度において検討したところ、dysbindinの強制発現ま血清除去による神経細胞死を減少させ、その効果はPI3Kinaseの阻害剤であるLY294002によって抑制された。またdysbindinの強制発現によりAktのリン酸化が増加することからdysbindinはPI3K-Aktシグナルを介して神経細胞保護作用を持つ可能性が示唆された。さらにsiRNAによるdysbindin遺伝子の発現抑制系においても強制発現系の結果を支持するデータが得られた。以上により、dysbindinは、グルタミン酸の放出を促進する機能を持ち、PI3K-Aktシグナル伝達系を介して神経細胞死を抑制することが示唆された。
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