研究概要 |
統合失調症は特有の症状によって規定される多因子性の症候群であり、家族集積性が高く、遺伝要因と環境要因の両方によって発症する「ありふれた病気」であると考えられているが、その発症機序はいまだ不明のままである。近年の分子遺伝学的研究の成果として、dysbindinとDISC1が有望な統合失調症脆弱性遺伝子として知られている。しかし、dysbindinの神経細胞における機能については未だ報告がまったくない。そこで、我々は、前年度にラット大脳皮質ニューロンの初代培養系にてウィルスベクターを用いた強制発現系とsiRNAによる発現抑制系を用いて、神経細胞機能を検討した。その結果、dysbindinはグルタミン酸の放出と、SNAP25やシナプシン1などのプレシナプス分子の発現に関与し、PI3K-Aktシグナルを介して神経細胞保護作用を持つことを明らかとした(Numakawa et al., Hum Mol Genet, 2004)。本年度は、抗精神病薬投与によるdysbindinやDISC1などの分子のマウス脳における発現の変化について検討し、非定型抗精神病薬投与によりDISC1の発現の増加が認められることを報告した(Chiba et al., J Neural Trans, in press)。さらに、神経細胞の培養系において、DISC1には神経細胞保護作用があり、その効果は、ERKとAktを介することを明らかとした。このような研究により、統合失調症の脆弱性遺伝子の機能が明らかとなり、新たな治療法の開発の糸口となることが期待される。
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