本研究の目的はいまだ検出の難しい腸管の虚血を、早期に検出し虚血に陥った腸管のviabilityがあるうちに、虚血の解除などの治療に結びつけようとすることである。その手段として腸管虚血の早期から血中に上昇するといわれているD-lactateをHPLC法を用いて高感度に検出する方法がある。このD-lactateはHPLC法ではなく吸光度計を使用した検出法が以前より報告されているが、この吸光度計を用いた検出法とHPLC法の感度の違いを比較するため、まずラットを用いて虚血腸管を作成し、その血液を採取した。その検体を吸光度計を用いた既存のD-lactate検出法をもちいて測定した。しかし、これらの方法では十分なD-lactateの検出ができなかった。その原因を検索したところ吸光度計の吸光度検出範囲以下(感度以下)の範囲でしか血液中のD-lactateが変化していないことがわかった。現在までに吸光度計を用いたD-lactateの検出の論文は数編報告されてはいるが、いずれもその検出にはpH、温度など非常にデリケートな要素が関与し、再現性に問題がある事が明白となった。 一方ラットの回腸末端20cmを絞扼するモデルを作成し、90分間絞扼する実験を行い、その結果、この90分絞扼モデルにおいては、絞扼を受けた腸管が絞扼解除後にviabilityを失いラットが死亡することが明らかとなった。さらには死亡したラットの腸管を検討することによって、死亡したラットには腸管粘膜の再生が不能な粘膜基底細胞の壊死を伴う障害が併発されていたことが明らかとなった。 絞扼腸管が上記の状態では90分で不可逆性変化をきたすことが、確認されたため、次年度は既存の方法ではなく、HPLC法によるD-lactate測定法を確立し、この90分の絞扼状態より短時間の絞扼状態で、腸管の絞扼が検出可能か否かを検討していく予定である。
|