研究概要 |
経産婦の乳癌に対する生涯リスクは、未産婦と比較して顕著に減少する。この現象は化学発癌剤(N-methyl-N-nitrosourea (MNU))誘発ラット乳癌モデルにおいても再現をみる。経産は最も生理的な手段による乳癌抑制であるが、その抑制機序の詳細は不明である。そこで、19週齢の近交系Lewisラット経産後乳腺と同週齢未経産乳腺ならびにMNU(60 mg/kg)投与後のそれら乳腺の遺伝子発現変化をマイクロアレイ解析により検討し、real-time PCR法により定量を行った。併せてPCNA免疫染色により乳腺上皮細胞の増殖を検討した。経産後乳腺において、未経産乳腺と比較し、乳腺上皮細胞分化マーカー遺伝子(whey acidic protein、B-casein、γ-casein)の顕著な発現上昇および細胞増殖関連遺伝子(amphiregulin (Areg)、regenerating islet derived 3 alpha (Reg3a)、mesothelin (Msln))の発現低下を同定した。また、MNU投与後の未経産乳腺において細胞増殖関連遺伝子(Areg、Reg3a、Msln、cell division cycle 2 homolog A、insulin-like growth factor 2、insulin-like growth factor binding protein 4、stathmin 1、homeo box, msh-like 1)の顕著な発現上昇をみたのに対し、経産後乳腺においてこれら増殖関連遺伝子群の発現抑制をみた。PCNA陽性細胞数は、MNU投与前後の経産乳腺において変化はなかったが、MNU投与後の未経産乳腺において顕著な増加をみた。よって、MNU刺激後の経産後乳腺における増殖関連遺伝子群の発現抑制ならびに乳腺上皮細胞の増殖抑制が乳腺発癌抑制機序に重要であると考えられる。
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