研究概要 |
経産婦の乳癌に対する生涯リスクは、未産婦と比較して顕著に減少する。経産乳腺における発癌抑制機序解明に向け、化学発癌剤N-methyl-N-nitrosourea(MNU)誘発ラット乳癌モデルを用い、マイクロアレイによりラット経産乳腺と同週齢未経産乳腺ならびにそれら乳腺のMNU投与後の遺伝子発現のプロファイリングを行った。さらにreal-time PCR解析により、未経産乳腺に比して経産乳腺で高発現をみる6遺伝子ならびに経産乳腺で低発現をみる8遺伝子を同定した(Oncology Reports,15(4)903-11,2006)。経産乳腺で低発現を示した遺伝子のうち、癌・細胞周期との関連が報告されているmesothelin、cdc2、stathminおよびregIIIに着目し、細胞増殖に及ぼす影響をMCF-10Aヒト乳腺上皮細胞へ遺伝子導入後、MTT assayにより検討した。なお、MCF-10Aは、EGF依存性であり、EGF存在下で検討した。その結果、mesothelinおよびcdc2強制発現細胞において、コントロールMCF-10Aに比して顕著な増殖促進をみた。またmesothelin強制発現MCF-10A細胞における増殖促進は、c-Raf、MEK1/2、MAPKのリン酸化亢進がWestern blot法により確認され、EGF刺激後のMAPK経路の活性化によるものと考えられた。本研究により、経産乳腺の発癌抑制機序におけるmesothelinおよびcdc2の発現制御の重要性を明らかにした。
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