光感受性物質(光線力学的治療:PDTに使用される)の腫瘍親和性を利用して、化学発光に要する酵素遺伝子をがん細胞内に過剰発現させ、PDTを施行する、すなわちレーザーを使用しないPDTという全く新しい治療法に関する基礎的実験を施行した。これは、将来的には様々な臓器の固形がんに応用できる可能性を有している。第2世代光感受性物質であるレザフィリンを使用し、ルシフェラーゼの改良体(基質としでcoelenterazine、酵素としてRenilla-luciferase)による反応により生ずる400-450nmの発光反応で細胞内PDTを行った。この波長領域に、光感受性物質の最大吸収域が存在するために、非常に効率よく光線力学反応が可能である。肺癌細胞株A549細胞にRenillaluciferase.遺伝子をプラスミドベクターを用いて、一過性に過剰発現させ、その後基質であるcoelenterazineを細胞培養液中に添加し、細胞にとりこませた。その後、時間経過とともに細胞を回収し、細胞核をヘキスト染色することにより、典型的なアポトーシス細胞をカウントし、抗腫瘍効果について検討した。その結果、Renilla luciferase遺伝子導入24時間後には、遺伝子が取り込まれた細胞のうち90%以上がアポトーシスを生じているのが観察された。このことは、癌細胞内で光線力学反応が生じ、それにより癌細胞がアポトーシスになったと考えられた。すなわち、癌細胞内発光による遺伝子治療は強い抗腫瘍効果を有することが明らかになった。今後は、この化学発光による細胞内PDTを従来の遺伝子治療技術を使用することにより、動物モデルで検証する予定である。これらは、全く新しい治療法で、我々は世界に先駆けた臨床応用を目標としている。
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