本研究の目的は、ヒトの慢性心房細動と同様の血行動態的条件で心房細動が発生かつ維持される実験モデルを作成し、その電気生理学的検討を行うことである。平成16年度は実験モデルの確立を行った。雑種成犬(30-40kg)5頭に対して全身麻酔、気管内挿管下に左開胸を行い、左鎖骨下動脈を剥離。これを左肺動脈に吻合した。併発するうっ血性心不全に対しては、利尿剤を中心とした治療を行い心不全をコントロールを行った。さらに、左心耳にペーシング電極を縫着し、動物実験用高頻度刺激ペースメーカーに接続し、ジェネレーターは背部皮下に埋没留置した。また電位記録用双極電極を両心耳に縫着し、体表より電位計測が可能なように皮膚に誘導固定した。術後一週より刺激周期100msにて左房高頻度刺激を開始し、高頻度刺激停止後に観察される心房細動の持続時間と両心房の興奮周期を計測した。全頭において高度のうっ血性心不全および左心房の拡大が認められ、うち2頭は心不全のため死亡した。残る3頭は心房細動持続時間が徐々に延長し、術後4週目には持続性の心房細動となった。これに対して256チャンネルマッピングシステムを用いて心房心外膜の電気的マッピングを行い、心房表面全体の興奮伝播の観察を行った。マッピング所見では、左右の上肺静脈より出現する反復性巣状興奮および右房を旋回するリエントリーが観察された。また下肺静脈を起源とする巣状興奮は見られなかった。得られた知見は2005年米国心臓学会議(ACC)にて発表した。
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