研究概要 |
脊椎動物のDNAトポイソメラーゼII(トポII)には,αとβの2種類のアイソザイムが存在している.トポIIαは分裂期の染色体分離に必須であることが分かっており,そのためエトポシドなどの抗腫瘍剤の標的分子となっている.トポIIβは細胞の分化に伴った遺伝子の発現に関与している.我々は複数の細胞で,トポIIの特異的阻害剤ICRF-193処理によってトポIIβが急速に分解されることを見いだした.トポIIがICRF-193で阻害されるとDNAの周囲にリング状にクランプされるため,転写や複製などの障害になることが予想される.この様なクロマチンストレスに対する応答反応として,クランプされたトポIIβを排除する為に分解機構があると考えられる. 本研究課題によって以下のことが明らかとなった. 1.この分解はユビキチン・プロテアソーム系による. 2.分解に先立ってトポIIβがユビキチン様タンパク質,SUMO-1/2/3やユビキチンによって修飾される. 3.E2酵素Ubc9をノックアウトしSUMOによる修飾を起きなくした場合,トポIIβの分解が抑制された. 4.トポIIβには2ヶ所にヒトからニワトリまで保存された潜在的SUMO化部位が予測された.(ラットでは、236,1259番目のリジン残基) 5.1259番目のリジンをアルギニンに置換した変異型トポIIβではSUMO化が阻害され,さらに分解も抑制された.他の部分の変異ではこのような現象は認められなかった. 6.阻害剤の処理によって、核小体に局在していたトポIIβは数分以内に核質に移動した。この現象は変異型トポIIβでも同様であった. これの結果から、1259番目のリジンのSUMO化がトポIIβ分解に必須であることが明らかとなった.
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