低灌流心においては、血小板凝集を抑制し、冠血流量を低下させない薬剤が、心筋虚血保護の面から有利と考えられるが、現在まで、麻酔、鎮静薬が低灌流心における血小板凝集に及ぼす影響に関する研究はない。また、虚血心筋におけるアデノシンやカテコラミンの放出が血小板凝集に影響するとの報告があり、これらの因子に対する麻酔、鎮静薬の影響についても報告されていない。 平成16年度は揮発性麻酔薬および静脈麻酔・鎮静薬がイヌの冠動脈低灌流モデルにおいて、血小板凝集及び、冠血流量、心筋収縮力に及ぼす影響についての検討した結果以下のことを明らかにした。 (1)セボフルラン、イソフルランの低灌流心に対する効果 揮発性麻酔薬であるセボフルラン、イソフルランの両者とも低灌流心において、対照群と比較して、冠血流量を増加させ、心筋収縮力を改善させた。また、病理学的に血小板凝集抑制効果を認めた。低灌流心に対する保護効果はイソフルランの方がセボフルランより大であった。 (2)デクスメデトミジンの低灌流心に対する効果 持続鎮静薬であるデクスメデトミジンの冠動脈内投与により、低灌流心における冠血流量は有意に増加し、心収縮力を改善させた。この作用は、アデノシンレセプター受容体拮抗薬である8-PTにより消失した。したがって、デクスメデトミジンの低灌流心に対する保護効果は、虚血領域の心筋から放出されるアデノシンに対する増強作用を介したものであることが明らかになった。
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