局所麻酔薬の神経毒性は、細胞内カルシウム濃度の増加や細胞膜への直接作用が原因の一つと考えられており、重亜硫酸ナトリウムが、培養細胞の形態学的変化と細胞内カルシウム濃度変化を抑制するならば、局所麻酔薬の神経毒性を軽減すると仮定した。本研究では、水棲カタツムリの培養細胞を用い、リドカインによる神経毒性を、重亜硫酸ナトリウムが形態学的に抑制するかを平成16年度と同様の実験方法で行った。 16〜24時間後に、倒立顕微鏡を用いて観察した。その結果、培養細胞は、伸びた神経突起と成長円錐を認めた。ディッシュ内のリドカイン濃度を100μM、1mM、10mM、100mMにし、30分後と24時間後に細胞体、神経突起、成長円錐を観察し、デジタルカメラで記録した。同様に重亜硫酸ナトリウム濃度を0.05、0.1、0.2%にして行った。次に、局所麻酔薬と重亜硫酸ナトリウムの混合液を用い、細胞体、成長円錐、神経突起の破壊が形態的に抑制されるかを比較した。 重亜硫酸ナトリウムは、0.1%以上の濃度で細胞障害を認めた。一方、リドカインは50mM以上の濃度で細胞障害を認めた。重亜硫酸ナトリウムの神経毒性軽減効果を調べるため、細胞障害を認めなかった0.05%重亜硫酸ナトリウムを各濃度のリドカインに混合し細胞障害を生じる濃度を測定した。その結果、重亜硫酸ナトリウムによる神経毒性軽減効果は認められなかった。しかし、pHの変動が大きかったため、pHによる細胞障害を調べた。その結果、pH6.5以下になると時間経過とともに、細胞の形態学的変化を認め、細胞障害を引き起こすことが示唆された。そのため、重亜硫酸ナトリウムの神経毒性軽減効果の有無については、pHの影響が無視できないため、pHを揃えた追加実験が必要である。
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