ビスホスホネート剤は前立腺癌悪性化因子であるaminopeptidase-N(AP-N)およびcaveolin-1の発現低下を引き起こすことを見出した(昨年度の研究実績)。本年度は、前立腺癌細胞株PC-3細胞に対するビスホスホネート剤の作用について、1.ステロイドホルモン除去培地におけるAP-Nおよびcaveolin-1の発現変化 2.各遺伝子の発現低下機序 3.細胞死誘導機序について検討した。 1.PC-3細胞にアンドロゲン受容体を導入して作製したPC-3/AR細胞をステロイドホルモン除去培地で維持した後ビスホスホネート剤を作用させたところ、PC-3/AR細胞のAP-Nおよびcaveolin-1の処理濃度依存的な発現低下が認められた。即ち、両遺伝子の発現変化はアンドロゲン受容体以降のシグナルが関与しないものと考えられた。 2.ビスホスホネート剤によるAP-Nおよびcaveolin-1の発現抑制は、イソプレノイド合成経路の中間体を同時に処理することにより回復した。また、ゲラニルゲラニルプロテイントランスフェラーゼ阻害剤によって、AP-Nおよびcaveolin-1の発現低下が引き起こされた。従って、ビスホスホネート剤のイソプレノイド合成経路阻害作用は両遺伝子の発現低下機序にかかわることが示唆された。 3.インカドロネートはPC-3細胞にcaveolin-1発現低下に伴う細胞接着能の低下を引き起こし、培養面から遊離した細胞にアポトーシス(アノイキス)を誘導することを見出した。また、アノイキス誘導機序として、focal adhesion kinaseの脱リン酸化が関与する可能性を示した。さらに、PC-3/AR細胞ではアノイキス細胞数の減少が認められ、ステロイドホルモン除去培地でのビスホスホネート剤による細胞増殖抑制効果の減弱に関わる可能性が考えられた。
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