今日までの不妊治療のめざましい進歩により、その成果は着実に進歩しているものの、男性不妊症、特に成熟精子を全く有しない、いわゆる無精子症は現在でも不妊治療の大きな壁となっている。近年、そのノックアウトマウスが減数分裂異常に起因する無精子症を呈するマウスFkbp6遺伝子が報告された。Fkbp6はFK506 binding domainを有し、ヒトでは7q11.23に存在する。以上より、減数分裂異常によるヒト無精子症患者DNAを用いてヒトFKBP6遺伝子を解析し、新たなヒト無精子症原因遺伝子を同定し、ヒト精子形成過程のメカニズムを明らかにすることを本研究の目的とする。ヒトFKBP6遺伝子の発現パターンを解析すべく、15の成人ヒト組織を用いてRT-PCRを施行した。結果、FKBP6は精巣特異的に発現していた。これより、ヒトFKBP6が、精子形成過程に関与していることが推定され、減数分裂異常によるヒト無精子症患者DNAを用いて変異の検索を行った。解析した患者19名は全て文章による同意を得てから、血液からDNAを抽出されている。変異解析はcoding region及び隣接するイントロンにプライマーを設定し、PCR及びダイレクトシークエンス解析を施行し行われた。解析された19名中4名の患者においてFK506 binding domain内の同部位に、1塩基の変異をヘテロに検出した。この変異は正常ではTACである配列がTAGに変換され、早期にストップコドンが出現する。このストップコドンの出現により、本来アミノ酸104個から構成されているbinding domainが、その上流わずか24個のみしか存在しない不完全なdomainが形成される。以上より、変異をもつ患者では本来ヒトFKBP6が有するFK506への結合が阻害されていると考えられ、遺伝子の機能が失われていることが示唆された。
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