ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)において、メドロキシプロゲステロンアセテート(MPA)は、エストロゲンによる一酸化窒素(NO)の産生と内皮型NO合成酵素(eNOS)の活性化を減弱させることがわかった。しかしながらMPAはNO産生とeNOSのリン酸化や活性化に直接的には影響を与えなかった。 さらにそのメカニズムとして、エストロゲンによるeNOSの活性化は、エストロゲン受容体(ER)αを介して、MAP kinaseやprotein kinase B(Akt)を活性化するnon-genomicな反応であるといわれているが、MPAはエストロゲンによるAktのリン酸化を減弱させた。 またプロゲステロン受容体阻害剤であるRU486を負荷することによって、これらのエストロゲンによるAktやeNOSのリン酸化に対するMPAの影響は完全に消失させられた。つまりこのMPAの反応は、プロゲステロン受容体を介するものと考えられた。転写抑制剤であるactinomycin Dを用いても、MPAはエストロゲンによるAktのリン酸化を減弱させた。よって、non-genomicな反応であることが示唆された。 血管内皮細胞にはプロゲステロン受容体(PR)AとPRBがあるので、COS細胞にERα、PRAとPRBの発現ベクターを導入したところ、同様に、MPAはエストロゲンによるAktのリン酸化を減弱させた。 これらより、MPAはエストロゲンによるAkt経路を介するNO産生を、non-genomicなPRAもしくはPRBを介して減弱させることがわかった。 これらの結果より、エストロゲンによる血管内皮細胞における抗動脈硬化作用に対してMPAは抑制的に働くのではないかと考えられた。今後はさらに他のプロゲスチン製剤の影響の違いなどについても検討を加えていきたい。
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