卵巣莢膜細胞からのアンドロゲン産生過剰は、多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome ; PCOS)などの卵巣機能異常をもたらす。従って、莢膜細胞におけるアンドロゲン産生メカニズムを明らかにすることは重要である。 当該研究者は、細胞内シグナル伝達分子Extracellular-signal regulated kinase(ERK)に着目し、ERK活性が莢膜細胞のアンドロゲン産生調節に関与するとの仮説を立て、これを検証した。なお、当初予定していたヒト莢膜細胞の不死化株の作成が困難であったので、ヒトと同じ単一排卵動物であるウシの細胞を用いて以下の実験を行なった。 (1)ERK活性が莢膜細胞の性ステロイド産生に果たす役割 黄体化ホルモン(LH)あるはインスリンは莢膜細胞のアンドロゲン産生亢進をもたらす。ウシ莢膜細胞にLHあるいはインスリンを添加して培養した後、ERKの阻害剤を投与しアンドロゲン産生への影響を検討した。ERKの阻害は、莢膜細胞からの黄体ホルモン(プロゲステロン;P4)産生を増加させ、逆にアンドロゲン(アンドロステンジオン;Adione)産生を減少させた. (2)ERKによる性ステロイド産生調節の分子メカニズム (1)の実験において、ERKが性ステロイド産生を変化させる分子メカニズムを明らかにするために、ステロイド産生調節因子StARとアンドロゲン産生合成酵素P450c17の発現を調べた。その結果、ERKの阻害は、莢膜細胞中のStARの発現を上昇させ、逆にP450c17の発現を減少させた。これらの発現調節は転写レベルで行なわれていた。 以上の結果より、ERKはStAR、P450c17を変化させることで、P4とAdioneそれぞれの産生調節を行なうと考えられた。また、ERKの阻害により莢膜細胞のアンドロゲン産生を抑制できる可能性が示された。
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