卵巣癌は腹膜播種の頻度が高く、患者の予後を左右する。この腹膜転移のメカニズムを解明するべく、腹膜非転移卵巣癌株(FOC3)から高転移株(MFOC3)を樹立した。これら両細胞の遺伝子発現の差をcDNAマイクロアレイを用いて解析した結果、細胞増殖、接着、浸潤、アポトーシス、サイトカイン等様々な遺伝子発現の差を確認した。 次に、卵巣癌腹膜転移の第一歩と考えられる腹膜中皮と卵巣癌細胞の接着について検討するためにGFPを両細胞に遺伝子導入することにより癌細胞を標識し、FOC3とMFOC3細胞との腹膜中皮に対する接着能の違いを検討した。結果はFOC3に比べてMFOC3の方が有意に接着細胞数が多かった。組織学的には癌細胞は腹膜中皮細胞とcell-cell adhesionしていることが解った。以上の結果より癌性腹膜炎の形成には卵巣癌細胞と腹膜中皮の接着能が重要な役割を果たしていることが示唆された。 そこで、cDNAマイクロアレイの結果を基に腹膜中皮に関与する遺伝子としてIL-1betaに着目した。IL-1betaはcDNAマイクロアレイでMFOC3に発現亢進を認めていたが、Western blotで蛋白での発現亢進も確認した。次にin vitroの解析を行うために、IL-1beta中和抗体を用いて、MFOC3細胞と腹膜中皮との阻害実験を行った所、有意に腹膜中皮との接着を阻害された。また、Recombinant IL-1betaを用いてFOC3の腹膜中皮への接着能の変化を観察した結果、有意に接着能の亢進を認めた。以上の結果よりIL-1betaが腹膜中皮との接着に関わっていることが示唆された。
|