妊娠高血圧症候群は一次的な病因として免疫学的因子、遺伝的因子、環境因子などが関与し、その結果、絨毛細胞の脱落膜への侵入障害やラセン動脈の血管内皮のremodeling障害が起こる。胎盤の血液循環は障害され、胎盤にいろいろな病態変化が起こり、その変化が妊娠高血圧症候群の発症に関与する。今回、妊娠高血圧症候群の病態形成に胎盤の循環障害が深く関与すると考え、妊娠高血圧症候群胎盤における変化を分子生物学的に解析した。 最初に、妊娠高血圧症候群胎盤における遺伝子発現変化をプロファイリングした。hypoxia関連遺伝子が高発現であったことからhypoxiaが妊娠高血圧症候群胎盤を特徴づける重要な要因であると考えられた。また、pro-apoptoticな遺伝子が優位に発現していたことから、妊娠高血圧症候群胎盤にアポトーシスがより強く起こっていると考えられた。また、細胞周期を停止する方向に発現変化していた。 次に、妊娠高血圧症候群に特徴的な変化と考えられる低酸素の絨毛細胞への影響を検討する目的で絨毛細胞をin vitroに低酸素培養した。低酸素培養によりPAI-1やTNF alphaの発現は増強した。PCNA発現は著しく抑制され、低酸素培養では細胞周期は停止していると考えられた。さらに、p53やBaxの発現も誘導された。TUNEL法でも低酸素培養でその陽性細胞数は多く、低酸素環境が絨毛細胞にアポトーシスを誘導すると考えられた。 胎盤のアポトーシスをin vivoに母体血中で証明するため、母体血中胎児DNAの測定を行った。胎児DNA濃度は、正常妊娠に比較し、GHでは2.9倍に増加し、PEにおいては4.3倍に増加すること、及び、それぞれの臨床症状の重症化に伴っても上昇することが分かった。このことは、臨床症状の重症化に伴って絨毛傷害が進行していることをin vivoに証明する結果である。母体血中胎児DNA濃度が妊娠高血圧症候群の胎盤における病態変化を無侵襲的にreal-timeに評価する分子マーカーになると考えられた。
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