癌においては種々のMatrix Metalloproteinases (MMPs)活性が元進しているとされるが、特に近年同定されたMMP-26は子宮体癌の発生に関与するとされる。子宮体癌はエストロゲンの作用により発生すると考えられているため、エストロゲンがMMP-26発現にいかなる作用を及ぼすかを検討することとした。インフォームドコンセントを得て正常子宮内膜・子宮内膜増殖症・子宮体癌組織を採取し、realtime RT-PCR法やWestern blot法にてMMP-26 mRNA・タンパクの発現量を調べたところ、MMP-26の発現は増殖期内膜において元進し、分泌期において低下していた。子宮内膜増殖症におけるMMP-26は強発現であったが、癌においてはその発現はほぼ消失していた。コンピューター解析により、転写因子エストロゲンレセプター(ER)の結合領域(ERE)がMMP-26プロモーター上に存在することが判明したため、エストラディオール添加およびER強制発現によるMMP-26プロモーター活性の変化を、子宮内膜癌細胞株ISHIKAWAを用いルシフェラーゼアッセイをもって調べた。MMP-26プロモータールシフェラーゼコンストラクトをtransfectionしたISHIKAWAにエストラディオールを添加したり、ERを共発現させると、MMP-26のプロモーター活性が亢進した。また、realtime RT-PCR法やwestern blot法にて、ISHIKAWAに対するエストラディオール添加が内因性のMMP-26発現をも元進させることを見出した。ERとEREの結合能はchromatin imunoprecipitation assay (ChIP)を行い調べたが、ERがMMP-26プロモーター上のEREと結合することが判明した。MMP-26の発現が転写因子ERを介しエストロゲンに依存していることが明らかとなった。エストロゲンやMMP-26が子宮内膜増殖症の発生に深く関わることが示唆されたが、エストロゲンは、少なくともMMP-26を通じた子宮内膜の癌化に、直接的には関わらないのかもしれない。
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