BALB/cマウスにおいて子宮片を腹膜上に自家移植すると、70%の移植片が生着し、6週後には約4倍の体積に成長した。この移植片を実験的異所性子宮内膜とし、子宮内膜症のモデルとして解析した。移植片では上皮組織の増生が見られ、複数の管腔を形成した。DNA microarray法で移植片中の遺伝子を検索したところ、正所性子宮と比べて2倍以上の頻度で発現変化が認められた遺伝子が約750個検出された。 子宮内膜症発症因子の候補となる遺伝子は多岐に渡っていた。発現が亢進していた遺伝子については、免疫系因子が多種類存在し、CXCL10などのケモカインや、macrophage-colony stimulating factor (M-CSF)などのサイトカインに強い発現が認められた。また、killer cell lectin-like receptorなどのNK細胞関連因子も高発現していた。他に、アポトーシス抑制性遺伝子であるBcl2a1、コレステロール25-水酸化酵素などの酵素系、白血病の発症に関与するmyeloid leukemia factor-1、カルシウム結合蛋白であるcalbindin-28Kなど、今まで子宮内膜症との関連性があまり報告されていない因子が多数見いだされた。 一方、発現低下が見られた遺伝子では、prostaglandin E2 receptor subtype EP3 (EP3)、prostaglandin I2 synthaseなど、prostaglandin関連のものが共通して検出された。EP3はアロマターゼ活性の抑制に関与しており、子宮内膜症の増殖を抑制する因子として臨床的にも最近注目されている。ヒト腺筋症の病理標本で解析すると、正常部位より病変部位において上皮内EP3の発現が低下していた。 今後は各因子の子宮内局在および発現強度を調べ、子宮内膜症発症因子についてより信頼度の高い実証を得るため、遺伝子改変マウスを用いた解析を行う予定である。
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