嗅神経鞘細胞移植による内耳神経の再生 本実験では、再生しないと考えられてきた中枢神経(今回は蝸牛神経)を再生させるのが目的である。最終的に再生させるために、いくつかの操作の習熟、補助実験が必要であると考えられる。現在、以下の操作の習熟、補助実験が終了しており、嗅神経鞘細胞を安全に移植することが可能となった。 (1)内耳神経、顔面神経の末梢-中枢神経移行部の検討 蝸牛神経を切断する位置が中枢神経であることが、本実験の大前提である。切断する部位が中枢神経であることを確実とするために、末梢-中枢神経移行部の位置を確認した。モルモットの蝸牛、前庭、顔面神経を長軸断し、中枢神経が選択的に染色されるmyelin basic proteinで染色することにより、各神経が脳幹部に進入する部分から末梢-中枢神経移行部までの距離を計測した。 (2)蝸牛神経の切断 安全かつ確実な術式を詳細に検討した。その結果、モルモットを顕微鏡下で側頭開頭して蝸牛神経を同定し、切断する術式が好ましいことが判明した。操作の過程で顔面神経の切断、少量の髄液吸引が必要となるが、高い成功率で術後6ヶ月以上生存させる術式が完成した。蝸牛神経を操作する場合、過去の報告では後頭開頭による操作が一般的であるが、顔面神経を切断しなければならない点を除けば、側頭開頭による操作の方が侵襲は小さいと考えられた。 (3)嗅神経鞘細胞の採取 幼弱モルモットを開頭し、嗅球を採取した。過去の報告を参考に、細胞を細断した上で、trypsinを用いて小さな細胞塊を作成した。これらの細胞を純化して純度の高い嗅神経鞘細胞を移植した方がよいとの報告もあるが、細胞を純化しない方が再生しやすいという報告もみられる。我々は、純化せずに移植する方向で検討している。すでに操作には習熟しており、移植可能な細胞を安定して作成できる状態となっている。
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