研究概要 |
対象と方法:生後10日、1ヶ月、3ヶ月、7ヶ月、16ヶ月の各日・月齢ICRマウスにBrdUを投与し、投与2時間後にホルマリン灌流固定、鼻腔組織を摘出した。摘出した組織を脱灰後、冠状断で切断し、パラフィン包埋して免疫組織染色用の試料とした。切片に抗olfactory marker protein (OMP)抗体による免疫染色および核染色を行い、OMP陽性である上皮下の嗅神経束を同定し、同神経束内にある嗅神経鞘細胞(olfactory ensheathing cell, OEC)の核の数を顕微鏡下にカウントした。さらに嗅神経束の断面積を画像解析ソフトで計測することによりOECの分布密度を計算し、これが加齢によりどのように変化するかを検討した。また、切片に抗OMP抗体と抗BrdU抗体による二重免疫染色を施し、BrdU陽性OEC核を同様の手法で同定、分布密度を算定し、OECの増殖能の加齢変化を検討した。結果:(1)嗅神経束の単位断面積あたりのOEC数(すなわちOECの分布密度)は生後10日から16ヶ月齢に至るまで有意な変化を示さなかった。また、(2)単位断面積あたりのBrdU陽性OEC核(増殖OEC)は生後10日から30日で急激に減少し、その後ほぼ一定の低レベルで推移することが明らかとなった。考察:嗅神経束の単位断面積あたりの軸索数が年齢によらず一定であると仮定すると、上記(1)の結果は嗅神経細胞数とOEC数の比が年齢によらず一定であることを示している。このことは、単位嗅神経数を構造的、機能的にサポートするOECの必要数が加齢によって変化しないことを示唆している、また結果(2)は生涯にわたりturnoverを繰り返す嗅神経細胞が嗅球の特定の部位に正しい軸索形成を維持するために、OECはその通路となるべき細胞動態の少ない安定した存在なのではないかという可能性を示している。
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