研究概要 |
嗅神経細胞の障害に起因する末梢神経性嗅覚障害は、患者のquality of lifeを著しく低下させ、大変な精神的苦痛を強いる疾患である。本申請研究では、従来の治療法に加えて、神経細胞の保護や再生促進効果の高い神経栄養因子の点鼻投与による末梢神経性嗅覚障害の早期改善・治癒を目的としており、そのために神経栄養因子プロサポシンに注目して研究を行ってきた。平成16年度科学研究費補助金により、以下の点について解明した。 1)嗅覚系におけるプロサポシンのアルタネイティブスプライシングについての解析 プロサポシンは2種類の機能を有している。一つは、合成後直ちにリソソームに運ばれてサポシンへと分解されて、リソソーム内の糖脂質分解酵素を活性化する因子としての機能であり、もう一つは、サポシンへと分解されずに、組織によっては細胞外へと分泌されて、アポトーシスを防ぎ軸索伸長を促進する神経栄養因子としての機能である。加えて近年、プロサポシシmRNAには齧歯類で2種類、ヒトで3種類のアルタネイティブスプライシングフォームが存在し、神経系の損傷時において各々のmRNAの発現性が変化することが示唆されている。しかしながら各々のmRNAの相違は数塩基のため、組織発現性については未だ不明であった。本研究では嗅覚障害におけるプロサポシンの生体内での発現性を明らかにするために、数塩基の違いしかない各々のmRNAを識別しうるプローブを作製し、in situ hybridizationにより嗅球における発現性を検討した。結果、嗅球では各々のmRNAが正常時においても高いレベルで発現していることが明らかとなった。 2)神経障害時におけるプロサポシンのアルタネイティブスプライシングの発現変化の解析 本研究では、神経障害モデルの作製が比較的容易であるラット顔面神経系を用いて、実際の神経障害時におけるプロサポシンmRNAのアルタネイティブスプライシングの変化について、in situ hybridizationにより解析した。結果、神経障害時には2種類のうち片方のmRNAには発現変化が認められず、一方でもう片方のmRNAの発現性が有意に高まることを明らかにした。本研究は、スプライシングされる3つのアミノ酸が、生体内におけるプロサポシンの神経栄養効果に重要な役割を有していることを示唆している。 以上の研究の一部は、16^<th> International Congress of International Federation of Association of Anatomists (August 2004,Kyoto, Japan)において発表された。
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