嗅神経細胞の障害に起因する末梢神経性嗅覚障害は、患者のquality of lifeを著しく低下させ、大変な精神的苦痛を強いる疾患である。本申請研究では、従来の治療法に加えて、神経細胞の保護や再生促進効果の高い神経栄養因子の点鼻投与による末梢神経性嗅覚障害の早期改善・治癒を目的としており、そのために神経栄養因子プロサポシンに注目して研究を行ってきた。平17年度科学研究費補助金により、以下の点について解明した。 1)ラット嗅球におけるアポトーシス発生頻度の検索 アポトーシスは神経回路の正常な構築に重要な役割を果たしている。嗅球における神経発生、増殖様式ならびに新生細胞の遊走時期については研究が進んでいるが、嗅球の発生や恒常性維持におけるアポトーシスの関与については不明な点が多い。本研究ではTUNEL法を用いて、胎生後期から成体に至る過程での主嗅球および副嗅球におけるアポトーシスの発生頻度について解析した。主嗅球および副嗅球の両方について、検討した胎生時期においてはアポトーシスを生じた細胞数は非常に少なかった。しかしながら、主嗅球および副嗅球の顆粒細胞層において、アポトーシスを生じた細胞数は生後増加し、生後20日目に細胞数のピークが観察された。本研究から、嗅球では生後20日目付近においてアポトーシスが関与する神経回路の精錬が生じていることが示唆された。嗅球における細胞死を考える上で本研究は重要な基本的土台を明らかにすることが出来たと考えられる。 2)神経障害時におけるプロサポシンの発現動態の変化の解析 本研究では神経障害時におけるプロサポシンの発現動態について、in situ hybridizationにより解析した。プロサポシンには、アルタネイティブスプライシングにより9塩基の付加の有無を違いとする2種類の分子が存在することが近年明らかにされたため、この2種類の分子の発現性についても解析した。結果、神経障害後5〜7日目に神経細胞におけるプロサポシンの発現が増加することが判明した。加えて、2種類の分子のうち、実際に神経障害により増加するのは9塩基短い方の分子であることが判明した。本研究から、神経障害に対するプロサポシンの投与時期や、実際のプロサポシンの神経栄養活性部位を模倣した合成ペプチドの作製のための重要な基本的土台を明らかにすることが出来たと考えられる。
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