特発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)の原因はこれまで不明とされていたが、麻痺発症に膝神経節に潜伏感染した単純ヘルペスウイルス1型(RSV-1)の再活性化が深く関与していることが明らかになってきた。しかし、顔面神経麻痺発現に至るまでのHSV-1感染動態、神経障害機序、宿主の免疫応答の関与などは明らかになっておらず、ベル麻痺に類似した病態をもつマウスHSV-1感染性顔面神経麻痺モデルを作成し、その病態について検討を行った。具体的にはHSV-1をBalb/cマウスの耳介に接種し、初感染を成立させた後に顔面神経膝神経節への潜伏感染が成立していることを証明した。さらに膝神経節に潜伏感染が成立したマウスに対して抗CD4抗体を投与し、選択的に免疫抑制を行うことにより再活性化刺激を加えた。再活性化刺激前後のマウスの膝神経節を採取し、real-time PCR法を用いて潜伏感染のマーカーであるLatency-Associated Transcripts(LAT)の発現量を経時的に検討した結果、刺激前、刺激後1日目はLAT発現量に差を認めなかったが、刺激後3日目には発現量が減少し、6日目以降には消失していた。このことは抗CD4抗体を投与により、3〜6日後に膝神経節に潜伏感染していたHSV-1が再活性化したことを示唆する結果である。また本モデルを用いて顔面神経膝神経節以外に脳幹部顔面神経、三叉神経節においてもLATの発現量を経時的に検討した結果、同様に再活性化を示唆する結果が得られた。この結果はHSV-1が複数の神経節から同時に再活性化している可能性があることを意味する。 また、マウスに再活性化刺激を加えることによるHSV-1感染性顔面神経麻痺の発現率について検討した。麻痺発現率は抗CD4抗体投与群では25匹中11匹(44.0%)、抗CD8抗体投与群では23匹中3匹(13.0%)であり、前者が有意に高率であった。今後は麻痺発現モデルの組織学的検討も加えて病態について検討する予定である。
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