研究概要 |
老人性難聴の場合,比較的高い周波数成分を持つ子音が聞こえにくくなり,会話に支障を来すようになる。近年,デジタル技術の発達により,高音域の補聴特性を細かく制御することで,音声明瞭度の向上を目指した補聴器が開発されつつある。しかし,これらイアホンを用いた補聴器は,狭く複雑な形状をした外耳道で,高音域まで,正確な音圧増幅特性を実現するのは困難であるという問題を根本的に抱えている。この問題を解決するため,外耳道の音響特性の影響を受けず,駆動力が強く高音質であるなどの利点を有した電磁誘導型補聴器は中耳侵襲が少なく装着が容易で,高い補聴効果が得られる, FEM中耳モデルを発展させ,鼓膜外側ツチ骨柄上にマグネットを配置したモデルを,購入予定のパーソナルコンピュータを用いて構築した。構築したモデルを用い,スーパーコンピュータで,外耳道に与えた振動磁場中での中耳挙動を解析した。耳小骨を直接駆動するため,歪みの少ない高音質が期待できることがわかった。また,駆動力が大きいため,耳小骨固着など,中耳疾患を伴う場合にも適用可能である。振動磁場,マグネットの磁力,寸法,質量および取り付け位置を様々に変えて解析を行い,内耳に入力する音響エネルギーを求め,最適なコイルとマグネットの仕様および配置の決定を試みた。 コイル,マグネットを試作し,モルモットおよびヒト側頭骨標本に組み込み,振動磁場を与えた場合の中耳振動を,研究室に現有する複合顕微鏡とレーザドップラ振動計を組み合わせたシステムにより測定した。FEM解析結果と測定結果を比較することで,マグネットとツチ骨との接合部などの未知な境界条件を決定し,解析の信頼性を高めることができた。
|