臨床においては、高齢者溶出性中耳炎患者に対して中耳貯留液細菌培養、耳管機能検査、レントゲン撮影による乳突蜂巣発育度について検討した。その結果、中耳貯留液より起炎菌と考えられる菌は現時点では認めていない。また全例で耳管機能の障害を認め、耳管機能障害が高齢者溶出性中耳炎の発症あるいは難治化と関連があることが示唆される。さらに乳突蜂巣発育は50歳未満では健側に比べ患側で発育が抑制されており、小児期における中耳慢性炎症による既往が影響している事が示唆された。一方50歳以上では健側と患側で明らかな差は認めず、高齢者溶出性中耳炎の発症と乳突蜂巣発育との関係は現時点では明らかとはなっていない。また鼓室換気チューブ留置を行なった患者に対し、6ヶ月に1度定期的に耳管機能検査と経粘膜的なガス交換に伴う中耳腔全圧の変化を測定している。その結果、耳管機能検査においては、チューブ留置後6ヶ月では機能改善は認めていない。しかし中耳腔全圧測定においては、チューブ留置後6ヶ月で小児溶出性中耳炎例に比べ高値を示す傾向が認められ、中耳粘膜障害は小児に比べ軽度であり、その状態は早期に改善する可能性が示唆された。 ウサギ肩齢者モデルを用いた動物実験において、加齢に伴う中耳粘膜の状態を確認するため中耳腔全圧の変化を測定した。中耳腔全圧最大値、最大値までの時間を小児モデルと比べてみても現時点では明らかな差は認めていない。また中耳粘膜標本は現在作製中である。
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