研究概要 |
慢性副鼻腔炎の治療において、マクロライド系抗生剤の少量長期投与や、内視鏡下鼻内手術などの外科的治療を行っても、再発を繰り返すような予後不良例が少なからず存在している。このような症例では治療に抵抗する何らかの予後不良因子が存在することが推測される。実際の診療の場において、予後不良例では病態の増悪期に感冒様の症状を伴うことが多くみられる点に着目し、微生物などの病原体特有の分子パターンを認識した後の自然免疫系、特にToll-like receptor (TLR)の反応性の違いが予後に関与している可能性を考えた。 そこで、そのような観点から難治化する機序を解明することを目的として、慢性副鼻腔炎患者のうち気管支喘息非合併例と合併例(アスピリン喘息を含む)から採取した鼻組織由来の線維芽細胞においてTLRを介した刺激を行い、その結果発現する遺伝子群をGeneChip (Affymetrix, Santa Clara, CA, USA)で網羅的に解析し病態間での比較検討を行った。 すると、TLR3のリガンドであるpoly(I:C)刺激時において、これらの病態間で発現レベルに差のある遺伝子を数多く認めた。さらに症例数を増やし検討した結果、気管支喘息合併例の鼻茸由来の線維芽細胞においては、気管支喘息非合併例と比べてTh1細胞の遊走活性などを有するIP-10、I-TACや、抗ウィルス作用に関与するOAS3などの多くのインターフェロン誘導性遺伝子の発現が減弱していた。このような、TLR3を介した刺激に対する反応性の違いが、再発を繰り返す予後不良な病態の形成に関与している可能性が示唆された。 また、病態特有の微小環境の影響を受けない、このような培養細胞における遺伝子発現の差は、一塩基多型(SNP)やエピジェネティックな変化が関与していることが推測されるため、今後はこの機序の解明に関する検討を行う予定である。
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