我々は以前に行ったmRNA DD法にてPhosphatidylinositol-5kinase-1alpba(Pip5k1a)を聴覚の生後発達に関わる遺伝子として同定し、ホスファチジルイノシトール経路の聴覚発達おける重要性を示唆した。 これに関連し、共同研究者である東京都臨床医学総合研究所、金保安則部長グループが新規に作成したPip5k1a遺伝子欠損マウスの供与を受け、聴覚機能および内耳構造に関する検索を行った。遺伝子タイピングはneo遺伝子およびターゲット遺伝子のPCRにより行い、これらの聴力レベルをABRにより評価し、Surface preparation法により有毛細胞の配列および感覚毛の形態を評価した。同マウスヘテロ接合体(+/-)の雌雄より交配を開始した。これらは遺伝的に聴覚障害を持つ129SvJ、C57BL/6をバックグラウンド系統に持っているため、正常聴力を持つなC3H/He系への戻し交配を行った。初代の-/-は、聴性脳幹反応(ABR)閾値において+/+との大きな差は見られなかった。しかし、二代目の-/-の約半数に40kHzの高音域のみで30db以上の聴力低下が見られるマウスが出現した。8kHzおよび20kHzでは正常なABR閾値を示した。高音域のみに障害を持つこれらの難聴マウスは内有毛細胞および外有毛細胞にしばしば異常配列が見られる傾向があった。この難聴マウス同士の交配ではほぼ全ての個体にて難聴の表現型が見られ、遺伝的原因による難聴である可能性が高い。これらの形質は全ての-/-に現れるわけではないため他の遺伝子の変異が関与している可能性も考えられる。現在、聴力レベルによりマウスを選別し、系統化している。C3H/He系への戻し交配は3代目まで得られ、現在4代目を作成している。今後外有毛細胞を中心とした機能解析および組織学的解析をより詳細に行う予定である。
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