声の高さの調節には声帯の長さと張力が深く関わっており、声を高くする際には甲状軟骨の声帯付着部と輪状軟骨の声帯付着部が互いに離れる方向へ運動が生じる。この変化は輪状甲状関節の運動によることが知られているが、この関節運動が回転運動のみなのか、滑走運動も行っているのかについては一致した見解が得られていない。そこで輪状甲状関節の運動を詳細に調べるために、MRIを用いて十分な解像度を得られるように撮像装置の改良や撮像方法の開発を行っている。 MRIは体内の器官を可視化するために利用されてきたが、喉頭を対象とする場合、撮像に時間がかかるために呼吸運動によるアーチファクトを生じたり、撮像対象が小さいために十分な解像度とS/N比が得られないという問題があった。これらを解決する方法として、小型アンテナを用いた喉頭用高感度コイルを試作し、発声時のみの撮像を行う発声同期撮像法を開発してきた。今年度は高分解能三次元撮像法を応用することによって、従来の2mm厚の撮像から1mm厚の撮像に成功した。これらの手法を用い、2段階(lowとhigh)の声の高さで持続発声したときの甲状軟骨および輪状軟骨の運動を記録した結果より3次元CGアニメーションを作成し、日本喉頭科学会において発表した。Lowとhighの画像を比較すると、甲状軟骨はhighで上昇していたが回転はともなわなかった。輪状軟骨はhighで上昇し、後方への回転が見られた。輪状甲状関節の相対運動はhighで約5度の回転、および約1.25mmの滑走であった。 以上の結果から、関節の滑走が起こらないとする従来の報告と異なり、中音域における輪状甲状関節の運動は、輪状軟骨の回転と滑走からなると考えられた。今後はより詳細な関節運動を計測し、滑走運動をもたらす筋機能について検討を行う予定である。
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