現在眼科領域の内眼手術に使用されている手術補助薬にはインドシアニングリーン(ICG)やトリパンブルー(TB)などの色素があるが、その有用性とともに近年では、網膜組織に対する組織障害の報告が相次いでいる。本研究では前述のものをのぞくいくつかの色素について臨床での使用を念頭に置きスクリーニングを行い、従来の色素のもつ長所を生かし、より組織障害性の少ない色素の候補を検討してきた。そのなかからブリリアントブルー(BBG)に注目しさらに詳細な検討を行った。BBGは生化学の分野などで、おもにタンパク質の染色などに用いられる色素である。まず前臨床試験としてラット眼を用い各種濃度に希釈したBBGを硝子体腔に注入留置し網膜に対する影響を組織学的・電気生理学的に検討した。注入後2週目と2か月目に網膜電図を測定し、眼球摘出をした。今回の検討での最高濃度の10mg/mlの群においても明らかに組織障害を示唆する所見は、組織学的、電気生理学的にも認めなかった。さらに網膜下注入においては0.5mg/mlの濃度以下の注入での安全性を確認した。また本色素は白内障手術にも応用可能なため、角膜内皮細胞に対する影響も同時に検討したが、あきらかな細胞毒性を示唆する所見は認められなかった。次にカニクイザルを用い実際に硝子体手術を行い網膜内境界膜組織の生体染色性を確認した。以上の結果をまとめ、IRBに実際のヒトでの臨床使用について申請し承認をうけた。 現在いくつかの網膜硝子体疾患と白内障の手術に本色素を用い手術を行い、その有効性と安全性について評価中である。
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