1.ヒト網膜色素上皮細胞(以下細胞と呼ぶ)をマトリゲルでコートされた培養皿で培養したところ、細胞は正常の網膜色素上皮細胞の表現型を示した。 2.この細胞を物理的あるいは酵素にて基底膜から分離し、再接着を妨げるために軽い震盪を与えながら培養すると多くの細胞がアポトーシスと思われる細胞死を引き起こした。 3.コラーゲンIでコートされた培養皿上で細胞を培養すると細胞死を起こすことなく増殖を続け、コンフルエントの状態にすることができた。 4.マトリゲルコートとコラーゲンIコートの培養皿でそれぞれコンフルエントになった細胞を無血清培地にて3日間培養し、totalRNAを抽出したのち、DNAマイクロアレイで約300種の遺伝子発現様式を調べたところコラーゲン群にてマトリゲル群より1.5倍以上発現が増加していたものが11.9%、0.5倍以下になっていたものが94%あった。遺伝子群別では成長因子がそれぞれ13.8%、13.8%の増減、細胞接着因子が22.5%、10%の増減、細胞外基質蛋白関連が20%、0%の増減、蛋白分解酵素が8.8%、17.6%の増減であった。特にVEGFやTGF-β2など血管新生に関わる遺伝子やインテグリン、ラミニンやMMP、uPAなど細胞外基質の合成や代謝に関わる遺伝子の発現増加が認められた。一方、Caspase-8やTNF-αなどアポトーシスに関与する遺伝子の発現には両群間で明らかな差は認められなかった。 5.リアルタイムPCRによる定量的解析では無血清培地に交換後それぞれの遺伝子発現は経時的に変化し、約24時間後には殆どの遺伝子発現が安定化した。無血清培地交換後3日目におけるマトリゲル群とコラーゲンI群間の相対的遺伝子発現量はマイクロアレイで認められた傾向を裏付けるものであった。
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