β-cateninのoncogenesisへの関与は小児悪性腫瘍においては近年、肝芽腫の発生に強く関与する報告がなされている。肝芽種の約50%の症例においてβ-Cateninの変異が検出されており、その発生への関与が示唆されている。しかるに他の小児固形悪性腫瘍へのβ-cateninの関与は今のところ不明である。ウイルムス腫瘍の発生にはWT1遺伝子異常が関与するとされてきたが、その頻度は10%程度であり、oncogenesisにどのように関わっているかの詳細は未だ不明である。近年、β-cateninもウイルムス腫瘍に15%程度の頻度で異常を認めるとされており、本研究ではβ-catenin遺伝子とWT1遺伝子のウイルムス腫瘍の発生ならびに発育における関与を明らかにすることを目的とした。1964年より2003年の間に九州大学小児外科教室において経験されたウィルムス腫瘍38例を対象とし、まず免疫組織学的にβ-カテニン、WT1遺伝子の発現を検討した。 βカテニンについては細胞膜に陽性を示したものが38例(100.0%)、細胞質に陽性を示したものが35例(92.1%)、核内移行を示したものが9例(23.7%)であった。組織型別での陽性率は腎芽型成分に35例(92.1%)、上皮型細胞成分に12例(31.6%)、間葉型成分には2例(5.3%)の陽性率であった。 WT1については細胞質に陽性を示したものが30例(79.0%)、核内移行を示したものが22例(57.9%)であり、組織型別での陽性率は、腎芽型細胞成分に21例(55.2%)、上皮型細胞成分に14例(36.8%)、間葉成分には3例(7.9%) βカテニンにて核内移行を示した9例は全例WT1にても核内移行を示した。 以上の結果をもとに、さらに組織内におけるDNAの発現と変異を調べるためにMicrodissectionにてこれらのパラフィン標本より組織型別にDNAを抽出し、検出されたDNAをSequencerを用いてdirect sequenceを行っている。またreal time PCR法を用いて発現の定量的解析を行い、実際にどのようなレベルでどの組織型に関与があるのかを検討する。
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