2005年から岩手県心肺蘇生法普及事業推進会議で、県民運動としての「AED使用を必須とした心肺蘇生法」の普及を本格始動させた。従来の心肺蘇生法に加え、練習用AEDを用いての除細動シミュレーションを行っている。公共機関でのAED設置が進みつつあり、岩手県庁では防災上の観点から、診療所や病院などの医療機関も含めた、AED設置場所を明示したマップを作成中である。また、医療従事者への普及の結果として、「岩手医大附属病院でのAED使用の実状」を報告した。岩手医大附属病院では2003年6月からAEDを院内各部署に設置しはじめ、現在、計20台を常設している。院内のAED設置後から2004年11月までの1年6ヶ月間にAEDが使用されたのは11症例であった。このうちの7症例の使用者は看護師であった。目前での心肺停止8症例のうち、悪性新生物3例を除いた5症例中4症例は初期調律が心室細動または無脈性心室頻拍であり、いずれも除細動に成功した(1例は蘇生に成功しなかった)。院内で突然に発症した心停止の初期調律の多くは心室細動または無脈性心室頻拍であり、早期の除細動が有効なことが裏付けられた。 一方、研究代表者が異動した栃木県でも、県内では初めての市民公開講座「心臓突然死を救え!」を開催し、普及運動の準備を開始した。この一環として、シミュレーション教育の創始でもあり、現時点でも最先端とされる、ピッツバーグ大学でのシミュレーション教育の実際を視察してきた。同時に、アメリカ心臓協会(American Heart Association)が認定している、医療従事者を対象にしたBasic Life Support(BLS)トレーニングコースを栃木県でも開始した。2005年には医療従事者約170名が修了した。AEDは、栃木県内の医療機関に324台、一般施設に90台ほど、学校にも13台設置されているという。多数例の救命には、AED設置と「AEDを使う心肺蘇生法」の普及がその両輪であり、「一般市民が行う除細動」の環境が着実に一歩前進したと考えられた。今後は、院外心停止例をウツタイン様式で登録して、院外心停止の実態、救命率を明らかにしていきたい。
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