Toll-like receptor 2 (TLR2)は、ウイルス、細菌、真菌あるいは原虫由来の多様な分子パターンの認識に関与する重要な生体防御分子である。細菌由来のTLR2リガンドとしては、ペプチドグリカン(PGN)やリポタンパク質等が知られている。研究代表者は現在までに、マイコプラズマ由来リポタンパク質(MLP)がTLR2依存的にMyD88、FADDならびにcaspase-8を介したデスシグナルを誘導し、さらにp38 MAPKが細胞死に関与していることを報告してきた。この分子メカニズムをさらに追求し、研究代表者はMLPやPGNがTLR2を介して誘導する細胞応答におけるMAPKKKメンバーASK1 (apoptosis signal - regulating kinase 1)の役割について検討したのでここに報告する。 ヒトTLR2を遺伝子導入したHEK293細胞に対して、MLPやPGNは濃度の上昇に伴って持続的なp38 MAPKとJNKの活性化を誘導した。ASK1のキナーゼ不活性型ミュータント遺伝子(東大・一條教授より分与)を導入すると、MLPやPGNによるp38 MAPKの持続的な活性化は消失し、JNKの活性化も有意に低下した。ASK1不活性型ミュータント導入細胞では、MLPやPGNがTLR2を介して誘導する転写因子AP-1とNF-κBの活性化が低下していたのみならず、caspase-3活性化やDNAの断片化といった細胞死誘導反応も顕著に低下しており、これらの活性の低下にはp38 MAPK活性の低下が大きく関与していた。これらの結果から、TLR2はリガンドの存在だけでなく量も識別し、リガンド量が多い場合にはASK1を介して主にp38 MAPKを持続的に活性化し、細胞活性化と細胞死の両応答を制御しうるストレスシグナルを発動する可能性が示唆された。
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