研究概要 |
バイオフィルムは、慢性難治性感染症の原因として非常に重要であるが、まだ解明されていない問題が多く残されている。MICを基準に、適切な抗菌薬を投与しても、十分な効果が得られないことが知られているが、その理由について、従来は細菌の産生する多糖体のバリヤー効果のためであると考えられていた。しかし、近年、抗菌薬がバイオフィルム内に浸透していることが証明され、バリヤー説は否定されつつある。 一方、我々は、これまでにバイオフィルム形成以前の単に付着しただけの細菌において既に抗菌薬に対し抵抗性を示すことを見出し、この付着菌の抗菌薬抵抗性が、バイオフィルム内の細菌の抵抗性に深く関わっている可能性が考えられる。 これまでに作製したトランスポゾン挿入変異株の中から、付着時の抗菌薬抵抗性の低下した株、KM50株と、浮遊菌においても高い抵抗性を示す株、KMX7803株を分離し、その遺伝子をそれぞれ、bta, tcp遺伝子と命名し、相同組み換えによりノックアウト変異株KMB12、TKP21株を作製した。またシャトルベクターにそれぞれの遺伝子を相補した株も作成した。 KMB12株は、カルバペネム系抗菌薬ビアペネムに対し、付着時の抗菌薬抵抗性が、低下していた。また、浮遊菌においても、定常期では抵抗性が低下していた。いずれの実験においても、相補性試験において抵抗性は復帰していた。またbta遺伝子の発現について、RNAを分離し、逆転写酵素により、cDNAを合成し、リアルタイムPCRにて定量したところ、付着菌では、浮遊菌に比べ約6.7倍の遺伝子発現の増加が見られた。 TKP21株においては、ビアペネムの他、ニューキノロン系のオフロキサシン、アミノグリコシド系のトブラマイシンにおいても、浮遊菌での抵抗性が上昇していることが明らかとなった。 以上の結果から、bta,遺伝子は、付着により発現が誘導され、付着菌の抗菌薬抵抗性に関与していることが明らかとなった。さらに浮遊菌においても、抵抗性に関与していることが示された。またtcp遺伝子は、作用機序の異なる様々な抗菌薬に対し、浮遊菌での抵抗性に関与していることが明らかとなった。今後この遺伝子について、より詳細な解析を行うことにより、抗菌薬抵抗性獲得メカニズムを明らかとし、バイオフィルム感染症の治療に大いに貢献できることが期待される。
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