本研究の目的は放射線照射によるインスリン様増殖因子I型受容体(IGF-IR)の活性化機構を明らかにすることである。定常状態にあるIGF-IRの活性化については2つの可能性が考えられる。1つは細胞外ドメインにリガンドIGF-Iが結合する可能性。もう1つは、細胞内においてCrk等によるtransphosphorylational activationの可能性である。さらに放射線照射の場合には、放射線によるIGF-IRの直接的な活性化の可能性がこれに加わる。一般に細胞の放射線感受性試験にはコロニー法が用いられるが、このアッセイでは、培地に10%牛胎児血清が含まれており、これはIGF-IRの活性化に十分な量のIGF-Iが存在している。従って、コロニー法ではIGF-IRがOnの状態であり、上記活性化の解析を難しくしている。このため本研究では、IGF-Iが結合不可能なIGF-IR変異体を作成するアプローチを取っている。このIGF-IR変異体については、既に報告のあるインスリン抵抗性患者におけるインスリン受容体(IR)変異体にヒントを得て、IGF-IR S343L変異体を作成した。現在は、IGF-IRノックアウトマウス胎児由来の細胞株R-に上記変異体を遺伝子導入し、stableなクローンを選択している段階である。今後、適切なクローンが得られれば、この細胞の放射線感受性について、また放射線照射による細胞内シグナリングの状態について調べる予定である。
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