研究概要 |
SPARCは,細胞接着モチーフを持たない細胞外基質である.この分子の生理活性については,不明な点が多い.特に,腫瘍におけるSPARC発現の臨床例とSPARCの機能解析の結果が一致しない報告が多い.例えば,卵巣癌にSPARCを発現させるとアポトーシスを誘導するという報告や,メラノーマ細胞のSPARC発現をアンチセンスにより低下させるとインビトロでの浸潤能を低下させ,ヌードマウスへの造腫瘍性を消失させることが報告されている.17年度は,従来から行ってきた,SPARCノックアウトマウスにおける化学発癌の研究を発表するためのいくつかの確認実験を行い,その成果は,International Journal of Oncologyに掲載された.内容は,DMBA-TPAによるスタンダードな化学発癌実験により,SPARCは乳頭腫の発生を抑制するが,扁平上皮癌への進展を促進するというもので,SPARCが腫瘍の発生と進展過程に多様な生物活性を示すことを明らかにした.また,SPARCには,ヌクレオチド除去修復機構に関与するERCC1の発現を正に調節することも報告した.このことは,SPARC発現細胞がシスプラチンなどに対する耐性能を増加させることに寄与していると考えられSPARC発現は,薬剤耐性にも関与することを示唆した.これを裏付けるように,シスプラチンによる治療が多く行われる舌癌におけるSPARCの陽性症例の予後は悪く,stage II症例ではSPARCの陽性と陰性での生存率の差が最も大きくなった.さらにstage IISPARC陽性症例の後発転移が高率に見られたことは,今後の手術後化学療法のレジメンにSPARC発現を考慮に入れたテーラーメード医療が有効であることを示唆した.これらの結果は,International Journal of Molecular Medicineに掲載された.一方,SPARCノックアウトマウスへのB16BL6メラノーマの実験的転移実験では,つぎの結果を得た.肺への転移結節は,[SPARC KO mouse×antisense導入B16BL6]よりも[SPARC WT mouse×mock B16BL6]の方が,幼弱期(4〜5週齢)において効率であったが,成熟期(>8週齢)では,あまり差が得られなかった.このことは,SPARCの有無による肺転移能の違いは,宿主側に大きな要因があることを示しており,次年度は,さらにその要因について検討をすすめる.
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