本年度は、in vitroの細胞培養系で実験的に骨芽細胞のアルカリフォスファターゼ(ALP)を低下させるモデルの作製、キトサンの培地への添加による培養骨芽細胞のALP活性の改善、ならびに骨芽細胞のmRNAレベルでの解析という3つの研究実施計画をたてた。 NOS-1細胞というヒト骨肉腫由来骨芽細胞を用いて実験を行った。まず天然アミノ糖であるキトサンモノマーを酢酸溶液に溶解した後、pH7.4に調整して0.2μmフィルターで濾過滅菌を行い、5%のキトサン溶液を調整した。それから、1×10^5cells播種したNOS-1細胞を7日間、炭酸ガス培養器で培養した。その後、微小重力を模擬するためのクリノスタットという装置にフラスコを移し、3日間培養を行った。これにより、重力と垂直な方向を回転軸とする傾斜回転群は、対照と比べて、細胞増殖が抑制され、有意にALPが低下することを確認した。また、総濃度0.005%(w/v)となるようにキトサンを添加した群は、傾斜回転群より有意にALP増加を示した。次に、石灰化物の形成を確認するためにvon Kossa分析を行った。固定コントロール群、回転コントロール群、キトサン群は、石灰化物沈着が認められたが、傾斜回転群は細胞が萎縮しており石灰化物は全くみられなかった。また、上記と同様の条件で、NOS-1細胞を炭酸ガス培養器とクリノスタットで培養を行った。クリノスタットでの培養3日後、細胞回収し、RT-PCR法を用いて石灰化に関連するALP、接着因子などのmRNAの発現状況を検討したところ、キトサン群において、インターフェロンγレセプターの発現がわずかに増加していた。これらの結果により、極低濃度のキトサンは、機能低下の状態において、培養初期の段階で、インターフェロンγレセプターを介して骨芽細胞の増殖と分化を促進する可能性が示唆された。以上の研究結果を、2004年8月31日から9月3日までポーランドで行われた6th International Conference of the European Chitin Societyにおいてポスター発表した。
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