本年度では、ラット臼歯外傷モデルにおいて破歯細胞の分化・活性化を正負に制御する因子を体内埋入型浸透圧ポンプにより持続的に供給した条件下で、歯根表面での破歯細胞および歯槽骨表面での破骨細胞の集積について組織形態計測を行った。雄性SD系ラット(5週齢、体重200g前後)を用いて、上顎第一臼歯を抜歯後に再植、反対側の同名歯を無処置の対照歯とした。ラット臼歯部における歯質吸収および周囲の歯槽骨での吸収活性を非破壊的に評価するため、エックス線μCT像を撮影、3次元構築像に基づき対象歯の歯根吸収、歯根膜空隙(骨性癒着の有無)、歯槽骨の骨梁構造について形態計測した。さらに同一試料の脱灰連続薄切標本から構築した3次元組織像においてTRAP陽性の破骨細胞系譜の局在分布を形態計測する手法を確立した。特に、TRAP陽性細胞集団において、単核と多核の細胞、骨表面との位置関係から付着細胞と歯根腔に遊離する細胞とを自動分離することができた。制御因子の全身投与実験モデルとしては、Alzet浸透圧ポンプを動物背部皮下に埋入し、外頸静脈と連結して、ビスフォスフォネート(16.7mgP/mL)を流速12μL/dayで最長14日間の持続的に投与した。この薬剤の持続投与下では、歯槽骨改造が活発な部位では類骨形成が進行していたが、多核の破骨細胞数と骨・歯根表面に接着したTRAP陽性細胞数は減少していた。ただし、全身投与下でも歯槽骨での類骨形成とTRAP細胞の動態へのビスフォスフォネートの影響に部位依存的であることを示唆する結果も得られており、次年度においてより詳細な検討を予定している。現在、破歯細胞の歯面への接着・活性化・離脱に至る動態と吸収活性に関わる分子機構の詳細を解明する目的で、硬組織表面への細胞接着に寄与する細胞外基質(OPNや象牙質リン酸化蛋白DSPとDPP)について透過電顕レベルでの検討を進めている。
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