カーボンナノチューブと口腔内細菌との相互作用を検討するため、Streptococcus mutans JC2株(S.mutans)を選択培地により純粋培養し、続いてシングルコロニーアイソレーションによりBHI培地中にて大量に増殖させ、各種条件検討に十分使用できる量を確保した。 得られたS.mutansと各種カーボンナノチューブ(単層・多層)凝集体を用いて、吸着様式や吸着条件の検討を行った。緩衝液中にて混合し十分攪拌を行い浮遊している菌の濃度を検討した結果、いずれのカーボンナノチューブを使用した場合でも強い細菌吸着能を発現することが判明した。吸着様式を形態学的に詳細に検討するため走査型電子顕微鏡にて観察した結果、カーボンナノチューブとS.mutansは複雑に混合しながら凝集体を形成していることが分かった。また、菌が産生した菌体外多糖や菌体自身がカーボンナノチューブ表面へ吸着している様子が観察された。特に単層カーボンナノチューブや直径30nmの多層カーボンナノチューブでは、菌体表面に沿って湾曲している特異な吸着形態が観察され、強力に絡み付いている可能性が示唆された。 一方で、細菌の付着状態が観察し易くするためにカーボンナノチューブ膜を調製し、表面を糖鎖で修飾した。初年度に得られた数種類の糖鎖にて修飾した膜を用いて液面に浮かべる形での付着試験を行った結果、糖鎖の種類により菌の付着量が変化した。これは、S.mutansが選択的に糖鎖を認識しているものと推測される。変化量があまり大きくないため明白な結果は得られていないが、今後さらに効率のよいカーボンナノチューブの形態や混合条件、認識に適切な糖鎖種の検討が必要である。
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