研究概要 |
これまでの研究においても、チューインガムを用いた咀嚼運動時の脳活動の計測が行われているが、その殆どがガムが軟化した時点での研究であった。しかしながら、咀嚼する食品の物性は、咀嚼の進行に伴い変化している。チューインガムは軟化されるまで物性は経時的に変化するが、軟化後は一定の物性を呈するようになる。そこで今年度は、チューインガムを用い咀嚼運動時の脳活動に関する詳細な研究を行った。右利きの健常成人を対象とし、被験者には神経学的な異常および下顎運動時の顎関節部の疼痛・関節雑音・開口障害が認められず、かつスピンエコー法にて撮影されたMRIにて脳内に明らかな病変がないことを確認した後、実験を行った。運動課題(ガムチューイング)は、28秒の休止期間、および28秒の運動期間を交互に4回繰り返すブロックデザインによって遂行された。撮影にはGE社製Signa-LX1.5TMRスキャナーを用いGradient echo echo-planar法(GRE-EPI)で行った。データの解析には脳機能画像解析ソフトであるSPM2(Welcome Department of Cognitive Neurology, London, UK)を使用し、各課題によって得られた4回分の時間連続的EPI画像について解析を行った。得られた機能画像を、SPM2内のEPI templateと一致するように線形変換による標準化を行い、信号雑音比の向上を目的にGaussian filterによって平滑化を行い、標準化では解消されない個人の脳形態の特徴を解消した。次いで、ボクセル毎にt検定を行い、BOLD信号の増加するボクセルを抽出した。これまでの研究でチューインガムを用いた咀嚼運動では感覚野や運動野が賦活していることがわかっていた。今回の研究では、食品の物性が経時変化しているときには、感覚野、運動野、前頭前野、頭頂間溝領域が脳賦活領域として認識された。このことから、咀嚼運動中の食品物性の経時変化時には、前頭前野、頭頂間溝領域が中心となって情報処理が行われていることがわかった。
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