研究概要 |
ヒトCXCR4 open reading frameをCXCR4高発現株であるB88細胞よりRT-PCR法にて増幅し、enhanced green fluorescent proteinとCXCR4の融合蛋白をコードする発現ベクターを作製した。本ベクターをCXCR4の発現が認められず、リンパ節転移能を有しない口腔扁平上皮癌細胞株細胞に強制発現させたところ、その恒常的発現株IH-CXCR4において、GFP-CXCR4は主に細胞膜上に局在していた。IH-CXCR4におけるCXCR4の発現をflow cytometry, RT-PCR法にて確認した。IH-CXCR4をCXCR4のリガンドstromal cell-derived factor-1 (SDF-1)にて処理したところ、細胞内カルシウムの上昇と著明な細胞遊走の促進が認められたことから、これらの細胞に導入したGFP-CXCR4の発現が機能的であることが明らかになった。また、SDF-1刺激はIH-CXCR4における細胞内ERK1/2,Akt/PKBの活性化をおこした。親株IH細胞あるいはIH-CXCR4をヌードマウスに同所性移植したところ、IH-CXCR4は高頻度に所属リンパ節転移を生じたが(4/5)、親株IH細胞ではリンパ節転移を認めなかった(0/5)。また、このリンパ節転移はMEK阻害剤U0126およびPI3K阻害剤Wortmannin投与により抑制された。一次治療前の口腔扁平上皮癌生検材料61例を用いてCXCR4の発現を免疫組織学的に検索したところ、57.3%の症例にCXCR4の発現を認めた。CXCR4の発現と種々の臨床病理学的因子との関連を検索したところ、CXCR4陽性症例ではCXCR4陰性症例と比較して、有意にリンパ節転移(P=0.0417)とgrade3,4の高度な浸潤(P=0.0002)が認められた。また、CXCR4陽性症例では再発症例が有意に(P=0.0185)増加しており、5年生存率も低下していた(P=0.0401)。以上より口腔扁平上皮癌のリンパ節転移には、SDF-1/CXCR4シグナルが重要な役割を担っている可能性が示唆された。
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