非崩壊型アパタイトセメントがスケルトンタイプの薬物徐放担体として有用であることから、同セメントに骨芽細胞の増殖促進作用を示すサイトカインを添加することでサイトカインが長時間、持続的に徐放され、同セメントの骨伝導・骨形成を促進できると考えられる。本研究では、サイトカイン徐放型アパタイトセメントを設計し、その徐放特性を検討し、より高機能性のアパタイトセメントを開発することを目的とした。 まず、添加するサイトカインとしてb-FGFを選択した。b-FGFが失活しないpH環境にアパタイトセメントを制御するため、セメントの粉末成分および練和液の調整を行った。セメントの粉末成分はリン酸四カルシウムとリン酸水素カルシウムの等モル混合比とし、練和液としては、中性リン酸を用いた。粉液比はP/L比を3.0とすることでサイトカインが失活しないセメントが作製できた。続いて、試作アパタイトセメントの物性(硬化時間、機械的強度、組成分析)の検討を行った。その結果、b-FGFをセメントに添加することで、硬化時間はほとんど影響なく、機械的強度についても軽度低下したが特に臨床上問題ない程度であった。また、b-FGFがアパタイトへの変換に対してほとんど影響しないことが分かった。次に試作アパタイトセメントからのb-FGFの徐放特性について検討した。その結果、初期で多くの徐放量がみられ、その後徐々に低下したが長期間持続的に徐放された。最後に、培養骨芽細胞を用いた徐放されるb-FGFの活性評価について実験を行った。その結果、b-FGF添加アパタイトセメントは、b-FGFを添加していないアパタイトセメントと比較して、骨芽細胞がより多く増殖しコラーゲン合成能、ALP活性も高く、さらにオステオカルシンの発現量も高かった。 今後、実際に実験動物を用いた組織親和性および骨伝導性についての検討を行う予定である。
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