本研究においては我々の教室において樹立したヒト口腔扁平上皮細胞株B88細胞を用いて、口腔癌治療における各種抗癌剤併用投与による治療成績の向上を目的とし、以下の検索をおこなった。 B88細胞を5-フルオロウラシル(5-FU;2μg/ml)或いはシスプラチン(CDDP;1μg/ml)にて処理したところ、各薬剤単独投与では40%程度の細胞増殖抑制効果を発揮したが、併用処理においては50%程度の増殖抑制効果を発揮した。なお、これらの増殖抑制はアポトーシスの誘導によるものであった。 以下、5-FUとCDDPの併用投与を目的とし、2剤の併用にてB88細胞を処理した。(1)5-FUとCDDPを同時に細胞培養液に添加(シークエンスI)、(2)5-FUにて24時間前処理した後、CDDPを添加しさらに48時間処理する(シークエンスII)、(3)CDDPにて24時間前処理した後、5-FUを添加しさらに48時間処理する(シークエンスIII)。 B88細胞を5-FUとCDDP併用処理(シークエンスI〜III)にて処理した際のエフェクターカスパーゼ(カスパーゼ-3)の発現を検索したところ、シークエンスIIIにおいて最も高い活性が認められた。また、カスパーゼ-3の活性化に重要な役割を果たすcytochrome Cのミトコンドリアからの放出もシークエンスIIIにおいて著明に上昇していた。さらに、カスパーゼカスケードにおいてカスパーゼ3の上流に存在するカスパーゼ-9(ミトコンドリアを介する経路)とカスパーゼ8(デスレセプターを介する経路)について、各シークエンスにおける活性化を検索したところ、いずれにおいてもシークエンスIIIにおいて最も高い活性が認められた。一方、アポトーシスインヒビターであるBcl-2の発現を検索したところ、シークエンスIIIにおいて蛋白発現が抑制されていた。 以上の検索結果より、ヒト口腔扁平上皮細胞株B88細胞においては5-FUとCDDPの併用投与をおこなう際に、CDDP処理の後5-FU処理をおこなうことで、アポトーシスの誘導を促進しうる可能性が示唆された。
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