研究概要 |
口腔癌をはじめ種々の癌においては、転写因子であるNF-κBが高発現しており癌の浸潤、転移に密接に関連していることが知られている。また、ある種の癌において放射線や抗癌剤に対する抵抗性の獲得にNF-κBが関与しているとの報告もある。そこで、本研究においては当教室において樹立したヒト口腔扁平上皮癌細胞株であるB88細胞を用いて、NF-κBの抑制により放射線に対する感受性を増強しうるか否か検討をおこなった。 B88細胞に5-20Gyの放射線を照射したところ、放射線は線量依存的に細胞増殖抑制効果を発揮した。B88細胞は放射線照射によりNF-κBの核内への移行、ならびにNF-κBの転写活性を上昇させたが、この際に生じるNF-κB活性はその抑制因子であるIκBαの分解によって誘導されていた。次に、26Sプロテアソーム阻害剤を用いてIκBαの分解を抑制しNF-κB活性を抑制した場合、放射線照射によるアポトーシス誘導が増強されるか否か検索をおこなったところ、放射線照射単独処理と比較しプロテアソーム阻害剤併用により有意に細胞増殖抑制効果を増強した。なお、これらの増殖抑制効果はアポトーシスの誘導によるものであった。一方、NF-κBによって誘導される抗アポトーシス因子のうちカスパーゼ3、カスパーゼ9の活性化を抑制するcIAPに関してその発現様式を検索したところ、放射線照射によりcIAP-1,cIAP-2遺伝子の発現が上昇したが、プロテアソーム阻害剤の併用によりその発現上昇が抑制されたことから、cIAPの発現抑制により放射線によるアポトーシス誘導が増強された可能性が示唆された。 以上の検索結果より、ヒト口腔扁平上皮癌細胞株B88細胞においては、転写因子NF-κBを抑制することにより放射線に対する感受性が増強され、アポトーシスの誘導を促進しうる可能性が示唆された。
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