腺様嚢胞癌(ACC)は極めて緩徐な発育と著明な浸潤性増殖、早期の肺への血行性転移を示し、病理組織学的には篩状の胞巣形成を特徴とする唾液腺悪性腫瘍で、固形癌のなかでも、浸潤・転移においてはきわめて特異な性質を持っていると言える。ケモカインは当初、炎症における白血球の遊走因子として記載されたが、最近きわめて多数の分子種があることが明らかになり、癌の浸潤・転移においても重要な役割を演じるとする報告が少なくない。特にCXCL12 (SDF-1)のレセプターCXCR4の発現は、膵臓癌、脳腫瘍、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、乳癌、前立腺癌、腎癌、肺癌、卵巣癌、甲状腺癌などで増加していることが知られており、特に骨転移・肺転移・リンパ節転移との関連性が注目されている。乳癌や悪性黒色腫においては肺組織より放出されるCXCL12と癌細胞表面に発現しているCXCR4が結合することによって臓器特異的な転移メカニズムが発生しているものと考えられている(Muller A et al. 2001 Nature 410 50-56)。 われわれは臨床において比較的特異的に肺へ転移する腺様嚢胞癌をモデルとして、特異的臓器転移過程の解析を行いたいと考え、1991年から現在までに当科で治療を行った腺様嚢胞癌患者の原発巣および転移巣の病理組織標本および当科で継代している腺様嚢胞癌ヌードマウス皮下腫瘍株、さらにACC cell lineより形成した背部皮下移植腫瘍におけるCXCR4の発現をanti-human CXCR4 monoclonal antibodyを一次抗体として免疫組織化学的に検討し、肺やリンパ節への転移の有無・予後との関連を含めて検討した。その結果、CXCR4の発現は腫瘍の組織型や腫瘍の増殖能と相関しており、solid typeにおいて高発現で、肺転移との関連が示唆された。 さらに肺高転移細胞株であるACC-M cell lineにおけるCXCR4の発現を蛍光染色、ウェスタンブロット法により検索した結果、高発現していることが確認された。recombinant human SDF-1α/CXCL12の細胞増殖に与える影響については、本培養細胞を96穴プレートにrhSDF-1αを添加し、MTT assayを行った結果、rhSDF-1αは細胞増殖への関与は認められなかった。 今後、本培養細胞を用いてchemotaxis assayやCXCR4 siRNA導入による浸潤・転移能の検討を行う予定である。
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