研究概要 |
腺様嚢胞癌(ACC)は、肺への血行性転移を示す唾液腺悪性腫瘍で、浸潤・転移において特異的な性質を持つ。近年、ケモカインレセプター、とくにCXCR4の発現と転移機構の関連が示唆されている。 われわれは、ACC患者11名に対し、H-E法で病理組織型、IHC法にてCXCR4の発現、胸部レントゲン写真とCTより頸部および肺転移の有無を検索した。その結果、CXCR4の発現は全例に認められたが、cribriform typeに比べてsolid typeの組織に強い発現を認めた。CXCR4高発現群は、8例中5例(62.5%)に肺転移を8例中2例(25%)にリンパ節転移を認めた。低発現群の3例はいずれも肺転移、リンパ節転移を認めなかった。 さらにACC培養細胞株ACCS, ACCH, ACCNSと肺高転移株ACCMについてCXCR4の発現を検討した結果、ACCMは他の細胞株と比較してCXCR4の発現が高いことが示された。また、ACC細胞群のCXCR4の発現は扁平上皮癌(SCC)のCXCR4の発現と比較して発現が高いことが確認された。ACC細胞株4株とSCC細胞株4株についてchemotaxis assayを行ったところ、CXCR4の発現が優位なACCが明らかに高い浸潤能を示した。すなわちACCの転移能は、CXCR4の発現によると思われた。 また、当科で継代しているACCヌードマウス皮下腫瘍株ACCYおよびACCI, ACCIの高肺転移腫瘍株ACCIMにおけるCXCR4の発現を検討した結果、継代を経るにつれ、CXCR4の発現が強くなり、solid typeの腫瘍組織に強く発現した。RT-PCRにてRNAの発現を検討した結果、腫瘍組織内でのCXCR4 RNAの発現と転移能には差がなかったことから、転移能の獲得は細胞外環境に癌細胞が適応し、生ずる現象であると予想された。
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